TriGRAPH #1私性
ヨシダミナコ 「普通の日々 」/キリコ「2回目の愛」

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ヨシダミナコ「普通の日々」

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本展「普通の日々」で9年ぶりに作家活動を再開したヨシダミナコは、活動を休止していたこの9年の間に撮影した日々の生活を展示したものである。
 
IMG_3175まず、すぐ目に入る白い展示台に束ねられた30cmほどのカタマリには、この9年間に撮影した大量の記録写真を両面にプリントされた写真が展示されている。これは、1260イメージを出力しパンチで穴を開けリングで止められたもので、この1260という数字は9角形の内角の和から連想されたものであり、1つの角を1年と例えたと言える。9年分の写真をアトランダムに抽出されたイメージのカタマリが、地層のように見え、時間の層であったり、記憶の層としても感じることができる。また、手前から奥へと1枚づつイメージを送り出す行為は、予定が書き込まれたカレンダーをパラパラと捲る行為を連想させ、人の日常を覗き見るような感覚にさせる。さすがに、1260イメージを見終えるまでには、初めのころのイメージがどのようなものだったか覚えていない。記憶とは、そういうものだろう。
 
一方で壁面には、これらの束になったイメージから、さらにヨシダの中で特に記憶に残る出来事が30枚ほどピックアップされ、彼女と夫が付き合いを始めたときの写真からスタートし時系列順に展示される。ある作品は2つのイメージが対となるが、基本的には1枚1枚が彼女の記憶に鮮明に残る思い入れのある記録写真である。ただし、彼女が夫と過ごしたこの9年間の日常を記録した写真でありながら、美術作家としての夫の存在を感じさせる絵の具やアトリエが写されているものの、夫自身は画面上に登場しない。
 
風景写真が多く、また食べ物やモノも被写体としての対象であるのだが、鑑賞者からすればその場がどこであるのか、またそのモノで何が起こったのか読み解くことは難しい。とはいえ、完全に「プライベート」な写真からは、ヨシダ自身が素直に感じ、記録したいという想いの表れが如実に表現されている。これらの9年間に撮り溜めたプライベートな写真を展示することで、中断していた作家活動に別れを告げるかのように、作品作りを再スタートするという決意表明でもあるようにも感じとれた。
 
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ヨシダミナコ
Minako Yoshida

1981年、兵庫県神戸市生まれ
日本写真映像専門学校卒業
2002年 キャノン写真新世紀 優秀賞(マルク・リブー選)
2005年 富士フォトサロン新人賞 奨励賞

2002年の初個展『向かうところ』(The Third Gallery Aya/大阪)以降、2007年までコンスタントに作品を発表2016年、約九年振りに写真の活動を再開します。
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キリコ「2回目の愛」

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「私はベッドの中で………」という文章と一緒に、機器のモニターを撮影した写真からスタートする。この機器は、介護モニターというものであるらしく、カメラで撮影された映像を子機が受信し、介護する側が見守るというものだ。本展「2回目の愛」では、写真と映像作品、それと、文章により空間構成され、写真と文章は、それぞれ並行に会場を一周する。
 
「ねんねんよう、おころりよ、母さんはいい子だ、ねんねしな」という文章からは、写真に写る女性が、自身の母親を介護していることを読み解くことができる。事実、その介護する女性は作家キリコの母親であり、また介護される女性はキリコの母親の母親、つまり、キリコの祖母である。なるほど、母親が祖母を介護する様子を介護モニター越しに撮影したのか。
 
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展示では、起床、食事、就寝を1日のルーティンとしての日常を連続写真でひとつの塊として表し、1日分であるかのように捉えることができる。また、モニターを撮影したことにより、文章が補足であることや、母親と祖母とキリコとの距離感や寂しさなど感情的な部分をも感じさせる。この連続写真の最後には、なぜか戻るはずの祖母の姿がベッドにはなく、加えて、「子機の電源が入っていなく受信範囲外です」と書かれていた。様々な疑問や想像をさせながら、展示の最後には、写真作品とは別に、会場に設置された2台のiPadに流れる映像作品が展示されている。映像には、その行動がはっきりとはわからないものの、介護する母親が祖母のトイレを手伝う場面と、赤ちゃんのオムツ交換の様子が映しだされている。どちらの映像作品も、介護モニター同様に定点観測的に撮影され、その現場に作家本人の存在はない。これらのイメージからは、母と娘による介護と育児とは、双方ともに「愛」による行為であることを考えさせられ、また、老いるということ、つまり誰かの補助なしでは生活をすることができなくなるということは、赤ん坊へ戻るということだということを連想させる。
 
キリコは、祇園で舞妓として生きた祖母の輝かしい過去の写真を使用した作品など、これまでに幾度か祖母を作品の対象としてきた。介護されるようになり、新たに築かれた母と祖母との二人だけの関係性に気づき、その現場を介護モニター越しに撮影を続ける。本展テーマの「#1 私性」ということも感じさせながら、また同時に、日本が抱える超高齢化社会や、介護現場を含む介護そのものの問題点としての「社会性」を作品を通し、強く感じさせられるものでもある。
人の心は、生まれた頃の感情に戻って行くのだろうか。作家キリコの祖母が、娘であるはずの母を「おかあさん」と呼ぶのだから、もしかしたらそうなのかもしれない。

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キリコ
Kirico

1978年京都生まれ
2009年より写真・映像などを使った作品制作・発表を続けている
第32回キヤノン写真新世紀佳作(荒木経惟 選)ミオ写真奨励賞
2010入選London International Creative Competition佳作(2015年)

近年の個展に
2015年「re collection」CROSSROAD GALLERY(東京)
2013年「re collection」Port Gallery T(大阪)などがある。

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TriGRAPH #1私性
キリコ 「2回目の愛」
ヨシダミナコ 「普通の日々」

2016年6月1日 (水)ー6月12日(日)
13:00ー19:30

Talk Event
6月4日(土) 19:00 入場無料
キリコ × ヨシダミナコ × 玉置慎輔(WaPoC)

企画・主催|galleryMain
共催・デザイン・展評|WaPoC

2016-08-03 | Posted in Exhibition, 作家紹介Comments Closed 

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